第二期ドームふじ観測計画において、72万年をさかのぼる氷床深層コアが掘削され、10万年周期の氷期・間氷期サイクルや、突然起こった気候変動などの研究に貢献してきました。一方で、海底堆積物コア解析による、さらに古い時代までの環境復元によると、氷期・間氷期サイクルの卓越周期は約4万年であったことが報告されています。しかしながら、その原因や10万年周期への移行のメカニズムはわかっていません。
そのため、100万年を超える気候記録を有する氷床コアを取得し、南極の気候と温室効果ガス濃度を復元することが、気候研究における大きな課題となっています。氷床コア掘削・研究の国際共同推進のためのエキスパートグループであるInternational Partnership in Ice Core Sciences(IPICS)は、重要課題として「Oldest Ice Core」(最古の氷床コア)プロジェクトを設定しています。これは、南極の異なる地点で複数の氷床コアを掘削し、150万年前までの気候記録の獲得を目指すものです。
100万年を超える古い氷は、複数の条件を満たした場所に存在すると推定されています。氷は厚いほどその最下層に古い年代の氷が保存されている可能性が高くなりますが、一方で厚い氷は大きな断熱効果を持つため、地殻熱によって氷床底面が融解します。そのため、底面が凍結し、かつ古い氷が存在する適度な氷厚が求められます。また氷床流動が活発な場所では内部層構造が乱される可能性が高いため、低速で安定した氷床流動である必要があります。さらに古い氷が存在するためには、小さな涵養量であることも必要条件です。これらの条件を考慮した氷床モデル研究により(Fischer et al., 2013)、南極氷床の中で100万年を超える古い氷が存在しうる場所が推定されています。
上記の条件を満たす複数の場所では、各国が掘削計画を進めています。ドームCでは、欧州連合のBeyond EPICAプロジェクトとオーストラリアがそれぞれ候補地として選定しています。またロシアはボストーク基地上流のリッジBでの探査を予定しています。ドームふじ周辺においても、氷床底面が凍結しており、流動が遅く安定した場所に、より古い氷が存在することが期待されます。当計画では、ドームふじ近傍における最も古い氷床コアの掘削を目的とします。